仮想通貨のブルトラップ:しくみと回避方法を解説
スポーツの世界では、トリックプレー(だまし技)は日常茶飯事です。右に行くと見せかけて相手の守りを緩め、裏をかいて左へ進む。よく見かけるプレーですね。
仮想通貨(暗号資産)市場も、意表をつく事例には事欠きません。本記事ではブルトラップ(強気のワナ)についてご紹介します。ブルトラップにはまると、相場がまだ下降トレンド中でも、買い進めてしまいます。その結果、深刻な損失を計上する可能性があります。
この記事を読めば、トレード初心者も、ベテラントレーダーも、ブルトラップのすべてを理解できます。価格の推移からチャート上のブルトラップを見抜いて回避し、資金を守りましょう。
ブルトラップとは何か?
ブルトラップとは、下落中の資産が上昇トレンド入りしたと思った矢先に、下降トレンドに逆戻りして安値を更新する現象です。
下降トレンド中に強気の反転を予想したトレーダーは、底値で押し目買いを入れたつもりになります。たしかに、買いを入れた後しばらくは、主要なサポートゾーンやレジスタンスレベルをブレイクアウト(突き抜け)します。しかし、やがて失速して再び下降トレンド入りします。そこから安値を更新したら、ブルトラップの完成です。トレーダーは含み損を抱えることになります。このようなブレイクアウトは偽のシグナル(だまし)と考えられており、トレーダーにとっては最悪のシナリオの1つです。
ブルトラップは「デッド・キャット・バウンス(一時的反騰)」とも呼ばれています。どのマーケットでも見られる現象ですが、すぐに反転しがちな仮想通貨市場では特によく発生します。そのため、早合点して反転の思惑から買い注文を入れたトレーダーは、その後の損失で痛い目に遭います。
ブルトラップ時のチャートとは?
典型的なブルトラップには、主に3つの段階があります。下図をご覧ください。
初期の下降トレンド — 継続的な下落
偽の反騰(だまし) — 比較的弱い反転
連鎖的な売り — 一貫した下降トレンドで安値を更新
ブルトラップは、偽の反騰を見て強気になったトレーダーがロングポジションを取るときに起こります。上図の地点1は初期の下降トレンドを表しており、相場が調整局面を迎えています。
その後、地点2で、トレーダーは調整局面が終わったと考え、買い場到来の思惑から買い注文を出します。おそらく最初は含み益を得られますが、反騰は一時的で、長くは続きません。
最終的には売りが買いを上回り、相場を押し下げます。以前の安値を下抜けたとき、ブルトラップが完成します。トレーダーはすでに損切りに追い込まれているか、大きな含み損を抱えているでしょう(地点3)。
ブルトラップの見分け方とは?
ブルトラップの特徴は、相場が底を打ったとの思惑から、早計に押し目買いすることです。トレーダーの目には、下降トレンドが終わったと映るようです。賢明なトレーダーであれば、リスク管理の観点から、ロングポジションを取った後で以前の安値をわずかに下回った時点で損切りします。
大口の買いが不在なため、早々に市場へ入っても、上値を追う偽のブレイクアウトは長く続きません。その結果、売り手の注文量が買い手を圧倒し、再び調整入りするのです。
このあたりから、買い手は少しずつ含み損を抱えていきます。その後も価格は調整し続け、含み損が増えることで、買い手は苦境に陥ります。
下落中の含み損に耐えきれなくなったロングポジションのトレーダーが、損切り注文を出し始めます。市場からロングが消えれば、売り一辺倒になります。
損切りをきっかけに売り手が増え、価格が下落します。この悪循環の中で下降トレンドが強まり、相場は急落します。
ブルトラップ判定の決め手となる指標
仮想通貨市場の急反騰は、よく知られています。バーゲンセール価格を逃したくないトレーダーは、安値圏で市場に入ります。しかし、後になって、それがバーゲンセール価格でなかったと判明するケースもあります。
市場の動きを予想するのは困難ですが、テクニカル分析やチャートの見方を身に付ければ、ブルトラップへ発展し得るシグナルを見分けることができます。
第1のシグナルとして、継続的な下落から反転しているが、上昇幅は大きくない場合が挙げられます。上図の例では、2021年5月に発生した初期の下降トレンド中に、ビットコインは23%下落しています。その間は、抵抗線の役割を果たす右下方向のトレンドラインの下側で推移しています。
これは下降トレンドがまだ続いているサインであり、ブルトラップの可能性が残されています。
第2に、ブルトラップでは、勢いのない偽の反騰が起きます。その結果、テクニカル指標であるレジスタンスレベルを上抜けしにくい相場が続きます。前回の高値と安値からなる水平のレジスタンスレベル領域が形成され、その領域を超えられない展開になります。
また、レンジが拡大せずに推移しているときも、ブルトラップの兆候です。トレーディングの世界では、「レンジ」に複数の意味があります。その1つは、各ローソク足の長さです。日足の場合、各ローソク足が1日のレンジを示しています。
初期の下降トレンド中はローソク足が長くなり、モメンタムの強さを示します。反転するには、上昇方向への変動幅が大きくなる必要があります。反騰時の変動幅が小さければ、反騰のモメンタムが弱いと考えられ、さらなる調整リスクがつきまといます。
レンジ(変動幅)の測定はとても簡単です。テクニカル指標「アベレージ・トゥルー・レンジ(ATR)」をチャートに追加するだけで済みます。入力パラメータの設定には、「1」を選択します。チャート下部にウィンドウが追加され、ローソク足の変動幅が示されます。
初期の下降トレンドを経て上昇したときに、ATRが同じか減少していれば、レンジは拡大していません。
また、相対力指数(RSI)指標からも、モメンタムの弱さを把握できます。多くのトレーダーや投資家は、RSI指標で買われ過ぎ・売られ過ぎを判断し、反転のブレイクアウトを見極めています。
たとえば、RSIが50の中心線をなかなか超えない場合、マーケットが方向感を欠き、まだ上昇トレンドにないと判断できます。モメンタムを欠いている状況では、RSI値は50未満で推移します。
さらに、以前・前回の安値を下抜けるのは、典型的なブルトラップの兆候です。一般的なテクニカル分析では、以前の高値と安値を基準として、価格変動を見ていきます。
前回の安値より低い水準で高値と安値が推移すれば、下降トレンドと見なされます。
ブルトラップが継続していると、下方向に調整されやすくなります。上記のブルトラップの例(ビットコイン)では、5日間で42%下落しています。
一般的なブルトラップの例
仮想通貨トレーダーの大半は、早すぎるタイミングで買い注文を入れがちです。ブルトラップが発生し、ビットコインやイーサリアムの価格が短期間で急落した例をいくつかご紹介します。
2020年2月13日に天井を付けた後、ビットコイン価格は調整し始め、20%下落しました(上図の地点1)。その後、下げ幅の一部を回復したように見えます(地点2)。
しかし、チャートのテクニカル指標は、それが偽の戻りだと示唆しています。抵抗線となるトレンドライン(地点3)のはるか下側で推移し、水平のレジスタンスレベル(地点4)も超えられずにいます。また、価格が戻っても、レンジは拡大していません(地点5)。さらに、RSI指標は中央値50を超えられずにいます。
この時点で、底値を付けたと判断できる材料は皆無です。つまり、ブルトラップ発生のおそれがあるのです。
事実、ビットコインは下落に転じ、その2日後に以前の安値を下抜けしました。下抜け後、5日間で58%暴落しています。
ブルトラップにはまるリスクのある仮想通貨は、ビットコインだけではありません。イーサリアムでもブルトラップが発生し、2021年5月19日に暴落しています。4時間足チャートで説明します。
5月12日から5月16日(地点7)にかけて、イーサリアムは29%に及ぶ下降トレンドに入りました。やがて、ETHUSDは確かな反騰を始めたように見えます(地点8)。しかし、チャートのテクニカル指標は、違う状況を物語っています。
第1に、イーサリアムは下降トレンドを上抜けできず、トレンドライン(地点9)の下側で推移しています。第2に、ETHUSDは水平のレジスタンスレベル(地点10)も超えられずにいます。
また、レンジも縮小(地点11)しており、健全な反騰とは言えない状況です。さらに、RSIは50を超えられず(地点12)、偽の戻りである可能性を示しています。
最終的に、イーサリアムはブルトラップにはまっていたと判明します。以前の安値3,124ドルを再び試す展開になりました。やがて以前の安値を下抜けると、ごく短期間で40%暴落しました。わずか数時間での出来事です。
ブルトラップへの対処法
ブルトラップ中は、まだ下降トレンドにあるにもかかわらず、トレーダーは買い進めます。トレンドに逆らった取引は、リスクを伴います。
現実的な問題として、下降トレンドが予想よりはるかに長引く場合もあります。トレンドに対処する最良の方法は、大きなトレンドを意識することです。たとえばブルトラップでは、まだ下降トレンドにある間は、各種シグナルに目を光らせましょう。シグナルが見つかれば、ショート(売り建て)で市場に入ります。
このとき、ショートで入るためのレジスタンスレベルを見極めることが大切です。相場が反騰して、前述のブルトラップの兆候が現れたら、下降トレンドが続く可能性が高まっています。
また、以前の安値水準を特定し、ブレイクアウトに備えて売り逆指値注文を入れます。連鎖的な売り注文に合わせて、大きな下降トレンドに乗ります。
大事なこととして、損切注文などの健全なリスク管理手法を必ず採用しましょう。取引がうまくいかなくても、損切注文をしておけば、深刻な損失からは免れます。
総じて、ブルトラップ中における最良の取引は、買いの機会を探るのではなく、下降トレンドに乗ってショートの機会を見極めることです。
ブルトラップを回避する方法
反騰に期待しつつも、その反騰が本物かどうか確信を持てない場合や、ブルトラップが発生するかもしれないと疑う場合もあります。先のことを完全に見通せる人はいません。後になってはじめて、価格上昇のモメンタムが思いのほか強かった、とわかるのです。
常に取引高を確認する
ブルトラップやベアトラップを回避する最良の方法は、取引高に目を光らせることです。価値が変動しているのに取引高に変化がない場合、トラップの可能性が高まります。
シグナルが確定するまで指標を見守る
ブルトラップを回避する他の方法は、トラップが起きそうにない十分なシグナルが出るまで待つことです。
抵抗線の役割を果たすトレンドラインや、水平のレジスタンスレベルを上抜けていますか? レジスタンスレベルを上抜けたのなら、ロングポジションを取っても安全になりつつあります。
アベレージ・トゥルー・レンジ(ATR)指標でレンジは拡大していますか? すべてのローソク足が長いとは限りません。とはいえ、ロングポジションを取る前には、陽線が陰線より大きい状況が望ましいでしょう。
また、RSIオシレーターは50を超えていますか? 超えているのなら、モメンタムがある程度強い証拠です。
2021年4月、イーサリアムには、ブルトラップが起きそうにない状況を知らせるシグナルが点灯しました。上図のとおり、イーサリアムはブルトラップを回避して、ブレイクアウトし、83%急騰しました。
好ましいシグナルが点灯するまで忍耐強く待つのは、簡単ではありません。しかし、これらのシグナルが点灯していない場合、仮想通貨市場にはさらなる下落のリスクが依然残っているのです。つまり、取引アカウントで損失を計上し得る状況にあるということです。
おわりに
ブルトラップは仮想通貨市場で頻繁に起きます。偽のブレイクアウトシグナルが点灯し、今後も上昇すると誤解してしまうのです。実際には、まだ下降トレンドの中にあり、下値を探る展開が続きます。
ブルトラップを回避する最良の方法は、強気トレンドを示唆するテクニカル指標のシグナルを待つことです。忍耐強く、価格の推移を見守るのです。適切な指標が点灯していないのに、「自分の予想どおりに市場が動く」と思い込まないことが大切です。常に調査を怠らず、許容できるリスク内での取引を心がけましょう。