レイヤー2ブロックチェーン:スケーラビリティ向上の仕組み
レイヤー2ブロックチェーンは、仮想通貨(暗号資産)コミュニティの中でも特に有望な構想です。この技術のおかげでスケーラビリティの課題が解決されてブロックチェーンのガス代が大幅に低下する、と多くの開発者が考えています。
なぜレイヤー2は非常に重要なのでしょうか? この記事を読み、その仕組みや優れた用途を詳しく知りましょう。
この記事のポイント:
レイヤー2は第2階層のブロックチェーンであり、メインのブロックチェーンシステムに追加されます。
レイヤー2ブロックチェーンは、メインチェーンのセキュリティ機能などを利用しながら、独自のフレームワークでシステムの処理能力を向上します。
今後予定されるイーサリアムのカンクンアップグレードは、レイヤー2ブロックチェーンにプラスに働き、その用途を広げると予想されています。
レイヤー2ブロックチェーンとは?
レイヤー2ブロックチェーンは第2階層のブロックチェーンであり、メインのブロックチェーンシステムに追加されます。メインチェーンのセキュリティ機能などを利用しながら、独自のフレームワークでシステムの処理能力を向上します。
レイヤー2ブロックチェーンが必要な理由は?
レイヤー2ブロックチェーンは、ブロックチェーンのトリレンマを解決すべく設計されました。このトリレンマは、ネットワークの安全性、分散性、スケーラビリティを同時に達成する難しさを象徴しています。レイヤー2ブロックチェーンは、ネットワークのスケーラビリティを改善することで、トリレンマの解決を目指します。
ブロックチェーン上のトランザクションを処理するために、レイヤー2に全く新しい処理領域を拡張します。レイヤー2ブロックチェーンはメインチェーンの基盤の上に構築されるので、メインチェーンのセキュリティや分散性をすべて受け継ぎます。そのため、追加のトランザクションをすばやく処理し、新規利用者が増えてもネットワークが混雑しなくなります。
この機能を持つレイヤー2ブロックチェーンは、昨今のWeb3開発に必須のシステムです。大勢がブロックチェーンを頼りにして、データの保管や複数あるトランザクションの執行、セキュリティの確保を進める中、スケーラビリティを求める声が大きくなっています。レイヤー2のチェーンを導入すれば、処理スピードの短縮と取引手数料の低下を実現できます。
レイヤー2ブロックチェーンの仕組みとは?
レイヤー2ブロックチェーンは、トランザクションを別の手法で処理することで、スケーラビリティを向上させます。はじめに、レイヤー2ブロックチェーン上でトランザクションを処理します。レイヤー2は、トランザクションの検証用に、暗号技術による証明などのさまざまな手法を採用しています。ただし、メインチェーンに記録されるまで、トランザクションは完全には確定されません。トランザクションを最終的に完了して資産を振り替えるために、チェーン間の通信を随時実施します。その際に、レイヤー2ブロックチェーンで処理したトランザクションをメインチェーンへ転送します。
各種レイヤー2ブロックチェーンがそれぞれの方法でタスクを処理しています。ここでは、レイヤー2ブロックチェーンのプロジェクトで現在採用されている一般的な仕様について、いくつかご紹介します。
ロールアップ
基本的に、ロールアップでは、トランザクションを一まとめにします。トランザクションが発生するたびにメインチェーンが処理するのではなく、レイヤー2ブロックチェーンが類似のトランザクションを収集・処理し、その結果をメインチェーンへ同時に送信します。
ゼロ知識ロールアップなどのロールアップは、オフチェーン処理をさらに進化させた設計です。スマートコントラクトでトランザクションを検証した後に、有効性証明をメインチェーンへ送信し、トランザクションを最終的に完了させるのです。ロールアップを採用すれば、メインチェーンは1つのトランザクションブロックを確認するだけで済み、トランザクションの検証が容易になります。その結果、トランザクションのスループットも向上します。多くの場合、ロールアップは別個のコンセンサスメカニズムではなく、親チェーンのコンセンサスメカニズムを採用しています。
サイドチェーン
サイドチェーンは、ロールアップよりも独立性の高いオペレーションです。メインチェーンと同一のコードや演算処理エンジン上で動作しながら、メインネットワークに併行してトランザクションを処理します。一般に、メインネットワークからの承認が不要な独自のコンセンサスメカニズムが採用されています。メインチェーンに随時接続して、チェーン間で資産を移動するシンプルな設計です。別個のコンセンサスメカニズムを採用するだけでなく、サイドチェーンに独自のトークンやプロトコルを利用しているケースが一般的です。
バリディアム
バリディアムはスケーリングソリューションの一種であり、検証用の証明機能を用いて複数のオフチェーントランザクションを検証します。これらのスマートコントラクトはゼロ知識証明を活用することで、トランザクションを最終的に完了します。無効なトランザクションが見つかれば、ゼロ知識証明が機能して、該当するトランザクションのメインチェーンへの送信を却下します。有効なトランザクションであった場合、元のトランザクションデータをオフチェーンで保管しながら、全データが正確である旨の知識情報がメインチェーンに送信されます。有効性証明の内容を簡単に検証することで、過度なデータ転送を避けて、メインチェーン上でスマートコントラクトを執行できます。
レイヤー2ブロックチェーンの長所と短所
他のブロックチェーン機能と同様に、レイヤー2ブロックチェーンにも向き不向きはあります。
レイヤー2ブロックチェーンの長所は以下のとおりです。
スケーラビリティ:レイヤー2ブロックチェーンを利用すれば、利用者数が増加しても、スムーズかつ効率的にネットワークを運用できます。レイヤー2のおかげで、あらゆるブロックチェーンで利用者数の増加に対処できます。
信頼性:ゼロベースで真新しいブロックチェーンを構築するのとは対極的に、レイヤー2の設計者は強固な基盤の上にシステムを構築できます。馴染みのあるコードベースやシステムを含めて、元々のネットワークが持つ分散性とセキュリティをすべて引き継ぎます。
柔軟性:レイヤー2ブロックチェーンには、メインチェーンにない機能を追加できます。開発者が考案した新機能を実装すれば、ブロックチェーンのサービスを拡充できます。
スピード:レイヤー2のソリューションは、ブロックチェーンが処理するトランザクション数を飛躍的に高めます。多くの場合、システムに優れたレイヤー2を実装すれば、1秒に数千件もの取引件数(TPS)を簡単に処理できます。
価格の手頃さ:ブロックチェーン上でデータが渋滞しにくくなるので、取引手数料が大幅に低下し、ブロックチェーンの利用頻度も利用者数も増加するでしょう。
レイヤー2ブロックチェーンの短所は以下のとおりです。
非コンポーザビリティ:コンポーズ可能なブロックチェーンには、さまざまな方法で組み立て可能な相互接続型の資産が複数存在しています。レイヤー2は、特定の資産だけが特定のチェーン上で利用できる制約付きの場合が多く、コンポーザビリティは低くなっています。その影響で、一部の分散型アプリケーション(DApps)が特定のブロックチェーンと連携することが困難になり、テクノロジーに精通していない開発者が開発をためらうおそれもあります。
流動性不足:レイヤー2がメインチェーンのトラフィックをほぼ全部引き受けるケースも一部には存在します。この場合、利用者がレイヤー2のトークンだけを処理している間、メインチェーンのブロックチェーン資産がロックされてしまいます。流動性が低下し、メインチェーン上で取引の完了と価値の保持が困難になり得ます。
セキュリティ面の脆弱性:レイヤー2は、メインチェーンのセキュリティを引き継ぎます。ただし、ブロックチェーンブリッジなど一部の機能が原因で、本来は安全だったネットワークにセキュリティ面の脆弱性が生じるおそれがあります。
プライバシーの低下:多くの場合、レイヤー2の運用には、サードパーティサービスとの連携が必要です。その影響で、メインのブロックチェーンが担保していた匿名性が損なわれるおそれもあります。
レイヤー2の優良プロジェクト
レイヤー2構想が登場するやいなや、ブロックチェーン開発者はその実験に着手しました。トランザクションを処理するレイヤー2ブロックチェーンは、数え切れないほど存在しています。ここでは、特に優れたレイヤー2プロジェクトをいくつかご紹介します。
Mantle Network(マントルネットワーク)
分散型自律組織(DAO)が管理するMantle Networkは、際立った存在感を示しています。イーサリアム上で機能するコミュニティ主導型のレイヤー2システムであり、モジュール式の構造を備えています。セキュリティレベルや必要なトランザクションタイプに応じて、異なるレベルで機能させられます。スマートコントラクトが利用可能なツールを数多く収録しているので、積極的に用途を試すハンズオン型の利用者に人気です。
Eclipse(エクリプス)
他の各種レイヤー2ブロックチェーンプロジェクトとは異なり、Eclipseは単一チェーン固有のプロジェクトではなく、複数のブロックチェーンネットワークで利用できるカスタマイズ可能なロールアップアーキテクチャです。Eclipseを利用すれば、開発者はセレスティアやニアプロトコル、ソラナなどのシステム上でレイヤー2のロールアップサービスを導入できます。あらゆる種類のプロジェクトでロールアップを作成できるうえに、利用者固有のニーズに合ったオフチェーンのスケーラビリティソリューションが見つかります。
Optimism(オプティミズム)
レイヤー2ブロックチェーンがOptimisticロールアップを利用すれば、各トランザクションを有効なものとして処理できます。無効なトランザクションである旨を示す不正の証拠が検出された場合に限り、ロールバックする仕組みです。そのおかげで、ネットワーク上で多大な時間をかけて、ブロックを手動で確定する手間が省けます。このコンセンサスメカニズムは新しい各ブロックにステークが要求されるので、広範囲にわたる検証や不正の証拠探しに時間をかけることなく、セキュリティ水準を維持できます。
Arbitrum(アービトラム)
Arbitrumの処理速度は秒ごとの取引件数で驚異の4万トランザクションを誇り、取引手数料もきわめて安価です。そのスケーリングソリューションにはOptimisticロールアップが採用されており、合理的かつ便利なシステムが構築されています。イーサリアム仮想マシン(EVM)用の基本言語でコーディングできるので、DApp開発者に人気です。
Polygon(ポリゴン)
Polygonは、きわめて人気のイーサリアム用レイヤー2スケーリングシステムです。レイヤー2ブロックチェーンを導入すれば、新しいプログラムを開発しやすくなります。Polygonは多種多様なDAppや決済チャネルに採用されています。また、開発者はPolygonのソフトウェア開発キットを用いて、独自のサイドチェーンを開発できます。
ライトニングネットワーク
他の多くのレイヤー2ブロックチェーンとは異なり、ライトニングネットワークはビットコイン上で機能します。レイヤー2ブロックチェーンを導入すれば、仮想通貨の少額決済も迅速に取引できます。ライトニングネットワークは非常にシンプルな設計ですが、幾多のビットコイン取引の屋台骨を担っています。希望する処理速度に応じて各種決済チャネルから選択できる機能は、とても便利です。
今後のイーサリアムのカンクンアップグレードがレイヤー2プロジェクトに追い風となる理由
イーサリアムのブロックチェーンは、きわめて高水準のレイヤー2ブロックチェーンプロジェクトで有名です。さらなるアップグレードは、レイヤー2開発者にさらなるビジネスチャンスをもたらす可能性があります。カンクン/デネブアップグレード(別名「EIP-4844」、非公式には「デンカン」)では、ダンクシャーディングと呼ばれるスケーラビリティの基礎をなす機能が導入予定です。カンクンアップグレードで利用可能なプロト・ダンクシャーディングは、さまざまな市況に適用可能な短期のデータ保管方法を提供することで、ロールアップをより簡単にします。カンクンアップグレードは、レイヤー2プロジェクトにさまざまな恩恵をもたらします。
スケーラビリティ
イーサリアムのカンクンシステムは、BLOB構想を中心に展開しています。バイナリー・ラージ・オブジェクトの略語「BLOB」は短期のデータモジュールです。メインチェーンの実行レイヤーに全データを永続的に保管せずに、ロールアップ時にデータを一時利用できる仕組みです。そのおかげでストレージ容量が大幅に増え、ネットワーク上でより多くのトランザクションデータを処理できます。データ転送も簡単になり、セキュリティ基準を維持しながら、ネットワーク上でトランザクションのスループットを向上できます。
ガス代の低下
カンクンアップグレードが大注目の理由は、メインのイーサリアムブロックチェーンでガス代が確実に低下するからでしょう。プロト・ダンクシャーディングがレイヤー2の開発を加速することで、メインチェーン内の不要なトランザクションを切り離しやすくなります。トランザクションのスループットが低下することで、新たなロールアップやデータ保管システムの恩恵を受ける場合も、そうでない場合も、全利用者の取引手数料が低下します。
レイヤー2のロールアップで取引手数料を低減
レイヤー1とレイヤー2間で取引手数料を低下させる取り組みは、非常に効果的です。なぜなら、レイヤー2から情報を取得してメインチェーンへ転送する通信コストが飛躍的に安くなるからです。専門家の試算によると、ロールアップのトランザクションコストは1トランザクションあたり0.001ドル未満になります。そのおかげで非常に安価な決済チャネルを構築でき、手数料をほとんど支払わずにトランザクションを自由に送信できます。
モジュール式データの利用可能性
プロト・ダンクシャーディングは、モジュール式のアプローチでデータを保管します。トランザクションに必要なデータを保管用の「BLOB」へ細分化するので、利用者は全ブロックを確認せずに必要なデータにアクセスできます。データの利用可能性が向上することで、多種多様なWeb3開発プロジェクトにブロックチェーンを利用できます。現在、イーサリアムは完全なモジュール式システムではありませんが、今回のアップグレードでモジュール方式への道が開かれます。
レイヤー2ブロックチェーンの未来
レイヤー2ブロックチェーンのネットワークは、スケーラビリティと安価な手数料を兼ね備えており、多くの関係者の目に「未来のブロックチェーン」として映っているようです。わずか数年で、ときおり現れる斬新な構想からWeb3開発に必須の機能へ躍進しました。レイヤー2ブロックチェーン構想には、決済チャネルやDAppなど数多くの機能が備わっています。レイヤー2環境で機能するスマートコントラクトプロジェクトは、増加の一途をたどっています。また、これらの各種プロジェクトを支援するために、ますます多くのレイヤー2システムが構築されています。
普及が加速する中で、レイヤー2の方向性も見えてきています。とりわけイーサリアムがシャーディングとダンクシャーディングに注力する中、新たなレイヤー2ブロックチェーンプロジェクトは、モジュール式に優先的に取り組む見通しです。
セキュリティ施策の向上も注目に値するトレンドです。レイヤー2にはその基盤となるブロックチェーンのセキュリティ機能が備わっています。しかし、レイヤー2の処理を高速化するオプティミスティック(楽観的)な証明などの機能を実装する代わりに、セキュリティを損ねるケースも見受けられます。一部のプロジェクトはこの種のアプローチを避けて、より強固なセキュリティ施策をレイヤー2ブロックチェーンのシステムへ構築する道を模索しています。
おわりに
レイヤー2ブロックチェーンは、複数のオフチェーントランザクションを管理することで取引手数料を低下させます。トランザクションのスループットを向上するだけでなく、その処理スピードまで高速化します。基盤となるブロックチェーンのアーキテクチャを採用しているおかげで、利用者は、使い慣れた信頼性の高いシステムを安心して利用できます。複数のトランザクションをすばやく処理するニーズが高まるに伴って、レイヤー2ブロックチェーンはブロックチェーン分野に無くてはならない機能になる見通しです。